第3回|障害福祉事業の開業資金はいくら必要?売上・利益・運転資金から逆算する方法
【第3回】障害福祉事業の開業資金はいくら必要?売上・利益・運転資金から逆算する方法
障害福祉事業を始めたいと考えたとき、多くの方が気になるのが「開業するには、いくらお金が必要なのか」という問題です。
物件を借りる費用、内装工事費、職員の人件費、備品代など、開業までにはさまざまな費用が発生します。
しかし、障害福祉事業所の開業で本当に注意したいのは、開業するまでのお金だけではありません。
開業後、利用者が増えて売上が安定するまで、事業を継続できる資金を確保しておくことが重要です。
例えば、開業に必要な資金をすべて使い切ってしまい、利用者が十分に集まる前に職員の給与や家賃を支払えなくなれば、事業の継続が難しくなります。
そのため、開業前には「いくら必要か」だけでなく、「毎月いくら売上が必要か」「どのくらい利益が残るか」「資金がいつまで持つか」まで考えておく必要があります。
この記事では、愛知県・名古屋市で障害福祉事業の開業を検討している方に向けて、開業資金・売上・利益・運転資金の考え方をわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 障害福祉事業の開業に必要な資金の種類
- 開業資金と運転資金の違い
- 売上と利益の違い
- 利用者数によって収支がどう変わるのか

- 赤字にならないために必要な売上の考え方
- 融資相談の前に準備しておきたい資料
1.障害福祉事業の開業資金は何に使う?
障害福祉事業を始めるには、法人設立から物件の確保、職員の採用、設備の準備まで、さまざまな費用が必要になります。
まずは、開業までに必要な費用と、開業後に必要となる費用を分けて考えましょう。
開業までに必要な主な費用
| 費用項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 法人設立費用 | 法人設立に必要な費用など |
| 物件取得費 | 敷金、礼金、保証料、仲介手数料など |
| 内装・改修費 | 間仕切り、手すり、トイレなどの工事 |
| 設備・備品費 | 机、椅子、パソコン、事務用品など |
| 車両費 | 送迎車両の購入・リースなど |
| 採用費 | 求人広告、採用活動など |
| 広告宣伝費 | ホームページ、パンフレットなど |
| 専門家への報酬 | 必要に応じた申請支援や専門家への相談費用 |
ただし、必要な費用はサービスの種類によって異なります。
例えば、就労継続支援B型、放課後等デイサービス、共同生活援助では、必要な設備や物件、人員体制が異なります。
同じサービスであっても、既存の物件を利用するのか、大規模な改修が必要なのかによって、開業費用は変わります。
インターネットで見つけた「開業資金はいくら」という金額を、そのまま自分の事業に当てはめるのは避けましょう。
自分が開業したいサービスと事業規模を決め、その条件に合わせて費用を積み上げることが大切です。
開業後に毎月必要になる費用
開業後は、利用者が少なくても発生する費用があります。
| 費用項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 人件費 | 職員給与、事業主負担の社会保険料など |
| 家賃 | 事業所や住居の賃料 |
| 水道光熱費 | 電気、ガス、水道など |
| 通信費 | 電話、インターネットなど |
| 車両関連費 | 燃料、保険、維持費など |
| 消耗品費 | 支援用品、事務用品など |
| その他 | 保険、システム利用料、外部委託費など |
特に注意したいのが人件費です。
障害福祉事業では、サービスの種類に応じて必要な職員を配置しなければなりません。一方、開業直後から利用者が十分に集まるとは限りません。
つまり、利用者が少ない時期でも、人件費や家賃などの支払いが続く可能性があります。
開業資金を計算するときは、初期費用だけでなく、開業後の毎月の支出も把握しておきましょう。
2.開業資金と運転資金は別に考える
開業資金を考えるときに、必ず押さえておきたいのが「運転資金」です。
開業資金は事業を始めるまでに必要な費用、運転資金は事業を継続するために必要な資金です。
例えば、開業前に内装工事や備品購入で資金を使い切ってしまうと、開業後の給与や家賃を支払う資金が不足するおそれがあります。
障害福祉事業では入金までの期間も考える
障害福祉サービスの報酬は、サービス提供後に請求する仕組みです。
一般的には、サービスを提供した月の翌月に国民健康保険団体連合会へ請求し、審査・支払いを経て入金されます。
そのため、サービスの提供を開始しても、支出と入金のタイミングにはずれが生じます。
さらに、請求内容に不備があれば、入金が遅れたり、報酬の一部が支払われなかったりすることもあります。
開業時には、次のような費用を考慮する必要があります。
- 利用者が少ない時期の人件費
- 毎月の家賃や水道光熱費
- 採用費や広告宣伝費
- 報酬が入金されるまでの支払い
- 予想外の修繕費や追加費用
「開業するまでにいくら必要か」だけでなく、「開業後にいくら資金が必要か」まで計算しましょう。
利用者が増えない場合も試算する
運転資金を考えるときは、計画どおりに利用者が増える場合だけでなく、利用者の増加が遅れる場合も想定することが重要です。
| シミュレーション | 想定する状態 |
|---|---|
| 標準ケース | 計画どおりに利用者が増える |
| 慎重ケース | 利用者の増加が計画より遅れる |
| 厳しいケース | 利用者が少ない状態が長く続く |
この3つのケースで収支を比較すると、売上が計画どおりに伸びなかった場合に、どの程度の資金が必要になるのかが見えてきます。
3.売上があれば利益が出るとは限らない
障害福祉事業の収支を考えるうえで、売上と利益を区別することは非常に重要です。
例えば、月の売上が300万円あったとします。
しかし、職員給与や家賃などの費用が合計280万円かかっていれば、残る利益は20万円です。
反対に、売上が250万円であっても、費用が200万円であれば、残る利益は50万円になります。
売上が大きいことと、利益が大きいことは同じではありません。
売上・費用・利益の関係
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 売上 | サービス提供などによって得られる収入 |
| 費用 | 人件費、家賃、その他の経費 |
| 利益 | 売上から費用を差し引いたもの |
売上 − 費用 = 利益
ただし、実際の経営では、借入金の元金返済や設備投資など、利益の計算とは別に現金が必要になる場合があります。
帳簿上は利益が出ていても、手元の資金が不足することがあるため、利益だけでなく資金繰りも確認しましょう。
4.利用者数によって売上はどのくらい変わる?
障害福祉事業の売上は、サービスの種類や報酬区分、利用日数、職員配置、取得する加算などによって変わります。
ここでは、売上の計算方法を理解するために、仮のモデルを使って考えてみます。
仮の売上モデル
- 定員:20名
- 月の営業日数:22日
- 1人が1日利用した場合の平均収入:10,000円
- 稼働率:50%、70%、90%
※1人1日当たりの平均収入は、計算方法を説明するための仮定です。特定の障害福祉サービスの実際の報酬単価を示すものではありません。
月間売上は、次のように計算できます。
月間売上 = 定員 × 稼働率 × 営業日数 × 1人1日当たりの平均収入
| 稼働率 | 1日当たりの平均利用者数 | 仮の月間売上 |
|---|---|---|
| 50% | 10人 | 220万円 |
| 70% | 14人 | 308万円 |
| 90% | 18人 | 396万円 |
このモデルでは、稼働率が50%から90%になると、月間売上は220万円から396万円に増加します。
しかし、利用者が増えれば売上が増える一方、必要な職員の配置や支援体制によっては、費用も増える可能性があります。
また、実際の報酬はサービス種別、報酬区分、利用時間、加算などによって変わります。
利用者数だけで収支を判断するのではなく、その利用者数を支えるために必要な職員数と費用も一緒に計算することが重要です。
5.赤字にならないために必要な売上を計算する
次に考えたいのが、「毎月いくら売上があれば赤字にならないのか」という問題です。
これは「損益分岐点」という考え方で整理できます。
損益分岐点とは、売上と費用が同じになり、利益がゼロになる水準のことです。
損益分岐点の簡単な計算例
次の条件を仮定します。
- 毎月の固定費:250万円
- 売上に応じて増える費用:売上の10%
この場合、売上が250万円あっても、売上に応じて増える費用が25万円かかるため、赤字になります。
損益分岐点の売上は、次の計算で求められます。
損益分岐点売上 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
今回の例では、
250万円 ÷(1 − 0.10)= 約277.8万円
となります。
つまり、この仮定では月間売上が約278万円で、ようやく利益がゼロになる計算です。
※実際の障害福祉事業では、人件費の一部が固定費になるなど、費用の性質は事業所によって異なります。この計算は仕組みを理解するための簡易モデルです。
損益分岐点を把握すると何がわかる?
- 何人程度の利用者が必要なのか
- 現在の人員体制で利益を確保できるのか
- 家賃が高すぎないか
- 職員を何人採用するべきか
- 稼働率が低い場合に、資金がどの程度必要になるか
開業前に、この計算をしておくことで、物件選びや採用計画を数字に基づいて検討しやすくなります。
6.利益が出ていても資金が不足することがある
事業計画を作るときには、利益と現金の違いにも注意が必要です。
例えば、月の収支では黒字になっていても、次のような事情で資金が不足する場合があります。
- 報酬の入金前に給与や家賃を支払う必要がある
- 借入金の元金返済がある
- 開業時の設備費を支払う
- 利用者の増加が想定より遅れる
- 報酬請求の返戻などにより入金が遅れる
このような事態に備えるには、月ごとの資金繰り表を作成することが有効です。
資金繰り表で確認すること
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 月初の現金預金 | 月の初めにいくら資金があるか |
| 入金 | 報酬やその他の収入がいつ入るか |
| 支出 | 給与、家賃、その他の支払いがいつ発生するか |
| 借入金返済 | 毎月の返済額はいくらか |
| 月末の現金預金 | 月末に資金がいくら残るか |
開業後6か月から12か月程度の資金繰りを試算し、利用者が予定より増えなかった場合も確認すると、必要な資金の見通しを立てやすくなります。
7.融資を受ける前に準備したいもの
開業資金のすべてを自己資金で準備することが難しい場合、金融機関などへの融資相談を検討することになります。
ただし、融資を申し込めば必ず借りられるわけではありません。
事業の実現可能性や返済の見通しを説明できるように、事前に資料を準備しておきましょう。
| 資料 | 説明する内容 |
|---|---|
| 事業計画書 | どのサービスを、どの地域で、どのように運営するのか |
| 開業資金計画 | 開業までに必要な費用と、その根拠 |
| 収支計画 | 売上、費用、利益の見込み |
| 資金繰り表 | 入金と支払いの時期、手元資金の推移 |
| 自己資金の資料 | 自己資金の状況など |
| 物件関連資料 | 物件の概要、費用、使用条件など |
| 人員計画 | 必要な職種、採用予定、給与など |
| 利用者確保の計画 | 地域の需要や利用者への周知方法など |
実際に必要な書類は、融資制度や金融機関、申込者の状況によって異なります。
また、指定申請に関する準備と融資の準備は、できる限り連動させることが重要です。
例えば、職員を何人採用するのかによって人件費が変わり、物件の広さや立地によって家賃や改修費が変わります。
そのため、事業計画・指定申請・資金計画を一体として考えることが望ましいでしょう。
8.開業資金を考えるときに避けたい5つの失敗
失敗1.開業に必要な費用だけを計算する
物件や設備にお金を使い切り、開業後の給与や家賃を支払う資金が不足するケースです。
対策:開業費用と運転資金を分けて計算しましょう。
失敗2.最初から満員になる前提で計画する
開業直後から利用者が定員いっぱいになるとは限りません。
対策:稼働率50%、70%、90%など、複数のケースで収支を比較しましょう。
失敗3.売上だけを見て利益を考えない
売上が大きくても、人件費や家賃が高ければ利益が残らないことがあります。
対策:売上だけでなく、費用と利益をセットで計算しましょう。
失敗4.物件を先に契約する
物件を契約した後で、設備や建物に関する条件を満たせないとわかると、改修費などの負担が発生する可能性があります。
対策:物件の契約前に、用途、設備、面積、消防関係、自治体の基準などを確認しましょう。
失敗5.資金が足りなくなったら融資を受ければよいと考える
開業後に資金不足が判明してからでは、希望どおりの融資を受けられるとは限りません。
対策:開業前に資金繰りを試算し、資金が不足する可能性のある時期を把握しておきましょう。
9.開業前に確認したい資金計画チェックリスト
次の項目を確認し、自分の開業準備状況を整理してみましょう。
- □ 開業に必要な費用を項目別に整理した
- □ 物件取得費や改修費の見積もりを取った
- □ 設備・備品費を計算した
- □ 必要な職員数と人件費を整理した
- □ 毎月の固定費を計算した
- □ 売上の計算根拠を整理した
- □ 利用者が少ない場合の収支を試算した
- □ 損益分岐点となる売上を計算した
- □ 報酬の入金時期を踏まえて資金繰りを確認した
- □ 開業後の運転資金を確保する方法を考えた
- □ 融資が必要な場合の相談先を検討した
- □ 予想外の支出に備える余裕資金を検討した
まだ決まっていない項目があっても、すぐに開業を諦める必要はありません。
大切なのは、不足しているものを把握し、開業前に準備できるようにすることです。
まとめ|開業資金は「いくら必要か」だけでなく「いつまで持つか」で考える
障害福祉事業の開業では、初期費用を準備するだけでは十分とはいえません。
開業後の人件費や家賃、利用者が増えるまでの期間、報酬の入金時期なども考える必要があります。
特に重要なのは、次の4つです。
- 開業資金:開業までにいくら必要か
- 運転資金:開業後、事業を継続するためにいくら必要か
- 売上と利益:毎月いくら売上があれば経営を維持できるか
- 資金繰り:入金と支払いの時期を考えても資金が不足しないか
そして、これらの数字は、物件、人員配置、定員、サービスの種類によって変わります。
だからこそ、開業前に自分の事業に合わせた計画を作成することが大切です。
障害福祉事業は、指定を受けられるかどうかだけでなく、指定を受けた後も安定して運営できるかどうかが重要です。
開業前に資金計画を整理することは、経営上の失敗を減らすための大切な準備といえます。
障害福祉事業の開業準備でお悩みの方へ
「自分が考えている事業には、どのくらいの資金が必要なのか」
「この定員と職員配置で、事業として成り立つのだろうか」
「物件を探し始めてもよいのか、それとも先に指定申請の条件を確認すべきなのか」
このような疑問は、開業したいサービスや地域、事業規模によって答えが変わります。
開業資金だけでなく、指定基準、人員配置、物件、売上・利益の見通しを整理し、開業後も継続できる事業計画を考えることが大切です。
愛知県・名古屋市で障害福祉事業の開業を検討されている方は、具体的な物件契約や設備投資に進む前に、準備状況を一度整理してみてはいかがでしょうか。
開業準備の早い段階で確認することが、後戻りできない出費や開業後の資金不足を防ぐ第一歩です。
次回予告|障害福祉事業の物件選び|契約前に確認したいポイント
資金計画を考えると、次に気になるのが物件の問題です。
- 希望する地域に物件が見つかったけれど、この建物で開業できるのだろうか
- 家賃が安い物件を見つけたけれど、改修費が高くならないだろうか

- 契約してから指定を受けられないとわかったら、どうなるのだろうか
障害福祉事業では、物件の選び方によって、開業費用や開業までの期間が大きく変わることがあります。
次回は、「障害福祉事業の物件選び|契約前に確認したいポイント」をテーマに、物件探しで失敗しないための考え方を解説します。
