名古屋市で障害福祉サービス事業所を開設するための完全ガイド
名古屋市内で障害福祉サービス事業を始めるのは、地域社会への貢献につながる素晴らしい一歩です。
しかし、行政手続きは複雑で、スケジュール管理が非常に重要です。
この記事では、名古屋市で新規指定を受けるために「いつ、何をすべきか」を4ステップで解説します。
ステップ1:事業計画の策定と初期準備(最重要)
事業を開始するにあたり、最も時間と労力がかかるのがこの初期準備です。
1 提供サービスを決める
どの障害福祉サービス(就労移行支援、放課後等デイサービスなど)を行うか決定する。
障害福祉サービスは、障害者総合支援法)に基づき、障害のある方が自立した日常生活または社会生活を営むために提供される様々な支援の総称です。
主に「介護給付」と「訓練等給付」の2種類に大別されます。
(1)介護給付(生活を支えるサービス):主に身体介護や家事援助、行動援護など、生活全般にわたる介護を中心としたサービスです。
| サービスの種類 | サービスの特徴 | 
|---|---|
| 重度訪問介護 | 重度の肢体不自由者や行動障害のある方に対し、長時間の身体介護や家事援助、外出時の移動支援などを総合的に行います | 
| 同行援護 | 視覚障害により移動に著しい困難がある方に、移動に必要な情報提供や代筆・代読などの支援を行います | 
| 行動援護 | 行動障害がある知的障害や精神障害のある方に、行動を制限するための支援や外出時の危険回避のための支援を行います | 
| 療養介護 | 医療を必要とする障害者に対し、機能訓練、療養上の管理、看護、介護、日常生活上の支援を行います | 
| 短期入所(ショートステイ) | 一時的に施設に入所して、入浴、排せつ、食事などの介護や生活上の支援を受けられます、また、介護者の休息(レスパイトケア)目的でも利用されます | 
| 重度障害者等包括支援 | 常時介護を必要とする非常に重度な障害のある方に、複数の介護給付サービスを一体的に提供します | 
| 施設入所支援 | 施設に入所している障害者の方に、主に夜間において入浴、排せつ、食事などの介護や生活相談・助言を行います | 
(2)訓練等給付(自立した生活を目指すサービス):地域生活や就労に向けた訓練、生活能力の維持・向上を目的としたサービスです。
| サービスの種類 | サービスの特徴 | 
|---|---|
| 自立訓練 (機能訓練・生活訓練) | 機能訓練は身体機能の維持・回復を目指し、生活訓練は地域生活を送るための生活能力の維持・向上を目指します | 
| 就労移行支援 | 一般企業への就職を目指す方に、働くために必要な知識や能力向上のための訓練、就職活動の支援、就職後の定着支援を行います | 
| 就労継続支援 (A型・B型) | 
一般企業への就職が困難な方に、働く場を提供するとともに、知識や能力向上のための訓練を行います A型は雇用契約を結び最低賃金が保証され、B型は雇用契約を結ばず工賃が支払われます  | 
| 共同生活援助(グループホーム) | 夜間や休日、共同生活を行う住居で、相談、入浴、排せつ、食事などの介護や日常生活上の援助を行います | 
(3)その他の主なサービス
| サービスの種類 | サービスの特徴 | 
|---|---|
| 障害児通所支援 | 児童(主に18歳未満)を対象としたサービスです | 
| 児童発達支援(未就学児対象) | 放課後等デイサービス(就学児対象)などがあります | 
| 相談支援 | サービス利用計画の作成や、地域移行・定着のための相談・調整を行います | 
| 地域生活支援事業 | 都道府県・市町村独自の取り組みとして行われるサービスです(例:移動支援、日中一時支援など) | 
(4)事業を選ぶ3つのポイント
①地域ニーズの有無:誰にどのようなサービスを提供したいのか(例: 児童、成人、身体障害、精神障害、知的障害など)を明確にし、その層のニーズが地域にあるかを確認します。
競合他社の調査もしましょう。周辺にどのような事業所があり、どのようなサービスを提供しているか、利用者の集まり具合はどうかなどを調査します。
②経営者の情熱・ビジョン
開業目的の明確化: なぜその事業を始めたいのか、どのような支援を通じて地域に貢献したいのかという経営者の明確な目的意識や情熱が、事業の継続には不可欠です。
提供サービスの選定: 自身のビジョンや専門性と地域ニーズが合致するサービス(例: 生活介護、就労移行支援、放課後等デイサービス、共同生活援助など)を選定します。
③事業の安定性(収益性)
ビジネスモデルの理解: 障害福祉サービスは公定価格(報酬)によって運営されるため、そのビジネスモデルを理解し、安定的な収益を確保できる見込みがあるかを検討します。
報酬改定への対応: 障害福祉サービスの報酬は3年ごとに改定されます。将来的な制度変更のリスクも考慮に入れる必要があります。
2 物件選定 事業所候補となる物件を見つけ、図面を用意する。
物件を探すなら、スケルトンよりもオフィス居抜きの方が内装コストがかなり低く抑えられます。1/5〜1/10にコストが抑えられます。

物件を借りるとしても契約はまだ行わない!
契約は図面審査が終わってからにしましょう。
放課後等デイサービス図面例
参照URL https://tenpo-naisoh.com/estimate/20250619-day-plan.pdf
利用者の使用する部屋は各部屋1人あたり、3.3㎡以上確保するのが理想的です。
最低でも1人あたり、2㎡以上確保できないと指定されません。
3 法人設立
事業を行うための法人(株式会社、NPO法人など)を設立する。
(1)営利法人
| 営利法人の種類 | 主な特徴 | 利点 | 
|---|---|---|
| 株式会社 | 認知度が高く、社会的な信用を得やすい。所有と経営が分離している。 | 信用力が高く、資金調達がしやすい。 | 
| 合同会社 | 出資者全員が有限責任。*有限責任:出資した限度で金銭的負担を負います。 | 設立費用が株式会社より安い(定款認証費用が不要)。利益配分や組織運営の自由度が高い。 | 
(2)非営利法人
事業による利益の分配を目的としない法人で、営利法人とは目的が異なります。
| 非営利法人の種類 | 主な特徴 | 利点 | 
|---|---|---|
| 公益法人(公益社団法人、公益財団法人) | 公益性の高い事業を行う。認定を受ける必要がある。 | 寄付金控除などの税制優遇を受けられる可能性がある。 | 
| 社会福祉法人 | 社会福祉事業を目的とする。 | 公的な支援を受けやすく、社会貢献につながる。 | 
法人ごとに他にも利点や不利な点があります。詳しくはご相談ください。
4 キーパーソンの確保
サービス管理責任者(サビ管)や管理者など、必須となる職員の候補者をこの段階から確保しましょう。
(1)サービス管理責任者(サビ管)
サービス管理責任者(サビ管)は、個々の利用者へのサービス提供の質的向上と管理を主な役割とします。
ア 役割と責務
①個別支援計画の作成: 利用者の障害特性やニーズに基づき、一人ひとりに合った個別支援計画書を作成します。
②計画に基づく支援の管理: 計画通りにサービスが提供されているかを確認し、必要に応じて見直し(モニタリング・アセスメント)を行います。
③職員への指導・助言: 現場スタッフ(生活支援員など)に対し、支援計画に基づく具体的な指示や技術的な指導・助言を行い、チーム全体の支援の質を向上させます。
④関係機関との連携: 利用者やその家族、相談支援事業者、他の関係機関との連絡調整役を担います。
イ 配置基準: 障害者総合支援法に基づき、ほとんどの障害福祉サービス事業所に配置が義務付けられています。配置人数は事業所の種類や利用者数によって異なります。
ウ 資格要件: 実務経験に加え、「相談支援従事者研修」および「サービス管理責任者等研修」の修了が必要です。
(2)管理者
管理者は、事業所全体の運営や経営、マネジメントに責任を持ちます。
ア 役割と責務
①事業所全体の運営管理: 事業所の経営、労務管理、法令遵守など、運営全般を統括します。
②対外的な窓口: 行政や地域との連携、事業所の代表としての対外的な対応を行います。
③人材・資金管理: 職員の採用・育成(サビ管と協力して行う場合も含む)、予算管理などを行います。
イ 配置基準: 原則として、事業所ごとに管理者を1名配置することが定められています。
ウ 資格要件: 管理者になるための特別な公的資格は必須ではありませんが、事業所の円滑な運営を行うための経営やマネジメント能力が求められます。
(3)両者の違いと兼務について
| 項目 | サービス管理責任者(サビ管) | 管理者 | 
|---|---|---|
| 主な役割 | 個別支援計画の作成・管理、現場支援の統括 | 事業所全体の運営・経営管理 | 
| 責任範囲 | 利用者へのサービス提供の質 | 事業所全体の運営 | 
| 必要な資格 | 指定の研修修了と実務経験が必須 | 原則として特別な資格は不要 | 
| 配置義務 | 多くの事業所で必須(利用者数に応じて変動) | すべての事業所で必須(原則1名) | 
(4)兼務について
多くの事業所では、効率的な運営のために管理者とサービス管理責任者を兼務することが可能です。
しかし、兼任した場合、事務作業量がかなりの負担となるため、兼任はお勧めしません。
ステップ2:名古屋市への「事前相談」と「図面相談」(指定の3ヶ月前までには終わらせましょう)
事業所開設のスケジュールを決定づける重要なステップです。
手続きの窓口:名古屋市健康福祉局障害福祉部障害者支援課事業者指定担当
1事前相談は、図面相談と申請書類の点検の2段階になります。
2 図面相談
(1)目的:物件の設備が基準(広さ、バリアフリーなど)を満たしているかの事前審査です。これが完了しないと、次の指定申請には進めません。
(2)期限:3ヶ月前の10日まで (例 4月1日指定希望なら1月10日まで)
(3)注意点: 図面相談で指摘事項が出た場合、図面の修正や再相談が必要になり、スケジュールが遅れる可能性があります。物件の契約は、原則として図面相談でOKが出てからにしましょう。名古屋市は建築士の確認書が必要になります。
2 申請書類(事業計画書、勤務形態一覧表、定款など)の点検
(1) 期限:第1回目は2ヶ月前の10日まで (例 4月1日指定希望なら2月10日まで)
(2) 目的:障害のある方々が必要なサービスを適切に受けられるようにし、福祉サービスの質の維持・向上を図る
 ア 申請内容の正確性と整合性の確認
提出された書類に記載されている情報(申請者の氏名、住所、障害支援区分、希望するサービス内容など)が正確であり、他の書類や添付資料と矛盾がないかを再チェックします。
 イ 指定基準の充足確認
特に新規事業者による申請の場合、事業者が法令で定められた人員、設備、運営に関する基準を満たしているかを確認します。これにより、適切なサービス提供体制が確保されているかを審査します。
 ウ 不正防止と公平性の確保
申請内容に虚偽や不正がないかを確認し、適正な支給決定や事業所指定を行うことで、制度全体の公平性と信頼性を保ちます。
ステップ3:指定申請書類の提出(指定の2ヶ月前)
事前相談で物件の目処と1回目の書類チェックが終わったら、最終的な書類作成と人員の確定作業に入ります。
1 人員の確保(申請書類提出時までに確定)
管理者、サービス管理責任者、その他の職員を確定させます。指定申請には、これらの職員の資格証や実務経験証明書の添付が必須です。
(1)管理者の条件
管理者は事業所の職員および業務を包括的に管理する役割を担います。特定の国家資格が必須というわけではありません。
ただし、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
①社会福祉主事資格要件に該当する者
②社会福祉事業に2年以上従事した経験がある者
③企業を経営した経験を有する者
④社会福祉施設長認定講習を修了した者
(2)サービス管理責任者の条件
サービス管理責任者は、利用者の個別支援計画の作成など、サービス提供の中核を担う専門職です。
以下の実務経験と研修修了の両方を満たす必要があります。
ア 実務経験
いずれかの経験年数を満たす必要があります。
①相談支援業務(相談員など)に通算5年以上従事
②直接支援業務(介護、生活能力向上のための訓練など)に通算8年以上従事
③国家資格等(介護福祉士、社会福祉士など)の業務に3年以上従事している者による相談支援または直接支援業務が3年以上
※実務経験は、「業務に従事した期間が1年以上」かつ「実際に勤務した日数が1年間に180日以上」が必要です。
イ 研修修了
以下の研修を順に修了している必要があります。
サービス管理責任者等基礎研修を修了
基礎研修修了後、2年以上の実務経験を経て、サービス管理責任者等実践研修を修了
2 正式な申請受理
指定希望月の前々月末日の午後5時30分まで(厳守)
書類の不備を修正し、正式に受理してもらいます。この時点で受理されないと、指定希望月が翌月以降にずれ込みます。
ステップ4:現地調査と事業開始(書類受理後、市による現地確認が行われます)
1 現地調査 指定月の前月20日前後 提出書類に基づき、事業所の設備が図面通りか、備品は揃っているかなどが確認されます。
管理者などが必ず立ち会います。
現地調査では主に以下の点が確認されます。
(1)設備基準
・申請された図面通りに設備(居室、訓練室、相談室、トイレなど)が配置されているか。
・利用者の安全や衛生面に配慮した構造・設備になっているか。
・消防法などの関連法令に基づく設備が備わっているか。
(2)人員基準
・申請された職員(管理者、サービス管理責任者、サービス提供責任者、その他従業者など)の勤務体制や雇用状況が、基準を満たしているか(勤務表や雇用契約書などの書類も確認対象となります)。
・職員の資格証や実務経験証明書などの原本確認が行われることもあります。
(3)運営基準
・事業所の運営規程や利用者との契約書、重要事項説明書などの各種書類が適切に準備されているか。
・利用者の特性に関する理解や、適切なサービス提供のための体制が構築されているか。
2 指定書交付・事業開始:指定日(毎月1日)
まとめ:成功のための最重要ポイント
名古屋市で円滑に事業をスタートさせるためには、以下の3点を意識しましょう。
1. タイムリミット厳守
「3ヶ月前の10日」「前々月の末日」など、期日が細かく定められています。スケジュール管理を徹底しましょう。
2. サビ管の準備は最優先
サービス管理責任者の資格取得(研修)には非常に時間がかかるため、事業構想段階から動き出す必要があります。
3. 専門家の活用も検討
行政書士などの専門家を活用することで、複雑な手続きや法的な確認をスムーズに進められます。
